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第56回:謎の多い「PlexMaster」その正体とは?
 〜 究極のCD-Rドライブか? 低価格版も予定 〜


 「PlexMaster」というCD-Rドライブをご存知だろうか。一般には市販されていないため、ごく一部を除いて広告なども出ていなければ、店頭で見かけることもない。その名前からもわかるように、あのPlextorが関わっているドライブであるが、同社のホームページなどを見ても情報はまったく掲載されていないという代物だ。

 このドライブは完全にプロ用として販売されており、レコーディングの世界においては話題になっている。今回、このPlexMasterの販売を手がける報映産業にインタビューすることができたので、謎の多いPlexMasterがどんなものであるのか伺った。


 CD-Rマニアの間でも、話題になっているPlexMaster。プロ用のCD-RドライブであるSONYの「CDW-900E」や、「CDU-924S」、「CDU-948S」の後継となるべく登場した、プレス・マスターが書き込めるドライブだ。

 これは、業務用として作られたドライブであり、製造元はPlextor。だいぶ以前から、このドライブに関する噂は聞いていたが、Plextorとしては、このドライブを一般に発売するつもりがなく、一種のOEM供給のみのため、あまりオープンにしたくなかったようだ。

WORLD PC EXPO 2001に展示された、「PLEXMASTER-01」

 もっとも、昨年のWORLD PC EXPO 2001においてPlextorが、「PlexMaster-01」という製品を参考出品していたので、完全な秘密というわけではない。しかし、それ以外で、一般の人が目にする機会はほとんどないといっていい。

 では、PlexMasterを作ろうと持ちかけた会社がどこだったのか? それが、情報と映像の専門商社である報映産業だ。

写真左から、報映産業株式会社システム営業部営業第2グループリーダー係長の菱沼裕二氏と、同グループ次長の吉田啓介氏
 この会社は、名前のとおり、映画のフィルム、ビデオを扱っているほか、最近ではAvidのディストリビュータでもあり、デジタルの映画スタジオの設計なども手がけている。一方、コンピュータ関連では、CDのデュプリケータの販売や、コンピュータ用のテープ、CD-R、DVD-Rなどのメディアをはじめとするサプライ関連を扱っている。

 その報映産業がなぜ、PlexMasterを販売するに至ったのか、またPlexMasterとはいったい何モノなのか、報映産業株式会社システム営業部営業第2グループリーダー次長の吉田啓介氏と、同グループ係長の菱沼裕二氏にお話しを伺った。(以下敬称略)


■ PlexMasterの開発経緯

藤本:報映産業さんは情報と映像の専門商社であるとのことですが、システム営業部営業第2グループというのは何をする部署なんですか?

吉田:私どもは、デュプリケータを主に扱っている部署です。最初はフロッピーディスクや、MO、デジタルのカセットテープのデュプリケータを扱っていましたが、最近はCDのデュプリケータが中心となっています。

 一番大きな市場が北米で、音楽スタジオで規模にかかわらず大きな実績を持っています。大きいところでは、キャピタル、ユニバーサル、ワーナーなどがあります。また個人オーナーのスタジオでも、スタジオの来たクライアントなどのお客さんにCDを渡すということで、かなり出荷してきた経緯があります。

藤本:ということは、音楽用市場に特化した製品を出しているということなのですか?

吉田:いいえ、それだけではありません。この部署で扱っている製品のもう1つの柱は、ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)のプレイステーション、プレイステーション 2用のデュプリケータ、およびマスター提出用の書き込み装置です。

藤本:こうしたプレイステーション用のデュプリケータなどを扱っている会社は、ほかにもあるんですか?

吉田:いいえ、この装置を扱っているのは当社だけです。また、プレイステーション用のこの機材というのは、一般に販売しているわけではなく、SCEに登録されているデベロッパのみに販売されます。

藤本:ちょっと意外なんですが、プレイステーション 2と、PlexMasterには関係があるんですか?

吉田:はい。実はこれが深く関係しているんです。プレイステーションのマスターCDを焼くためにはプレス・マスターCD(PMCD)対応のCD-Rというものが必要になります。具体的にいえばSONYの「CDW-900E」がそれです。しかし、CDW-900Eは、非常に古いドライブであるため、すでに市場にはなくなっています。

 その後、CDU-924S、CDU-948Sといった後継ドライブをSONYが作っていますが、これらもすでになくなり、何かいいものはないだろうか、と考えていたのです。こういった業務用の製品は、部品を十何年保証しなくてはならない、供給も十何年し続けなくてはならないなど、民生品と比較して要求が非常に厳しい。それでいて販売台数も少ないわけですから、SONYのような大きな会社が、後継ドライブを作ることは無理でした。

藤本:CDの規格元でもあるSONYなのに、プレス・マスター用のドライブの生産を放棄してしまっているわけですね。だからこそ、CDW-900Eなどが幻のドライブとして話題になるわけですね。

吉田:そんな中で、従来からCD-RドライブメーカーとしてPlextorがいいという評判を聞いていました。そこで、業務用途のPMCD対応のCD-Rドライブを作ってくれないかと提案してみました。

藤本:それが、PlexMasterのスタートというわけですね。つまり、Plextorが企画した製品というより、報映産業が言い出した製品なのですね。

吉田:元々、PMCD対応のCD-Rドライブを要求したのはSCEです。その要求に応えるために、Plextorに打診したわけです。実際、PlexMasterには製品の企画段階から絡んでいます。

 今までの経緯から、PlexMasterの最初の目的はプレイステーションのマスター出しのライターとしての製品です。とにかくSONYのCDW-900Eなどの後継が、SCEにとって必要だったのです。プレイステーションの場合、SONYにマスターディスクを提出するとともにCUEシートを添付します。そのマスターディスクのフォーマットは、PMCDとなっていないとダメだったのです。

藤本:PMCDというのは、一般のCD-Rが書き込まないエリアにCUEシートの情報を置いたCDですよね。単にCUEシートと、そのデータを添付してあげればいいように思いますが……。

吉田:確かにそうなんでしょうが、すでにSONYの工場にあるマスタリング装置はPMCD対応となっているため、簡単にそれを変えるということはできないのでしょう。必要なデータをディスクから吸い上げられることで、すべてを自動化しているのだと思います。

 とにかく、そのような経緯でPlexMasterができあがったのです。当初はずっとゲームデベロッパにだけに出してきたのですが、Plextorのドライブは音がいいという定評があります。せっかくなら、それを前面に出して製品展開をしてみようか、という話になったのです。



■ 黒のカラーリングには理由がある

藤本:それはいつごろの話なんですか?

菱沼:実は結構最近の話なんです。プレイステーション用のPlexMasterを正式に販売し始めたのは2002年の3月1日です。試作はさらにその3、4カ月前にはできていました。この試作機で、SCEの出しているソフトウェアとのテストを行なっていたのですが、これに結構時間がかかりました。

吉田:当初このドライブは、一般のPC用ドライブと同じアイボリーホワイトだったんです。しかし、これを黒に変更しました。ご覧いただければわかるように、これは筐体だけでなく、中のトレイなどもすべて黒です。黒にした目的は、黒いほうが音質がよくなるからです。

藤本:それはどういうことですか?

吉田:黒にすると、レーザーコントロールがよくなり、ピット形状がよくなることが、Plextorの長い経験から導き出されてました。こうした音質にかかわる点も見えてきたことを踏まえ、プリマスタリングとプレイステーション用に製品化しようとなったわけです。

藤本:黒にしたモデルも、アイボリーホワイトのものとスペック的には同じなんですよね。このスペックというのは、どんなものなんでしょうか?

菱沼:インターフェイスはSCSI-2を採用しており、書き込み速度は8倍、4倍、2倍、等速をサポートしています。

藤本:なるほど、ということは、Plextorでも最近は生産していない、古いモデルに相当するスペックですね。

吉田:そうなんです。そのために、一度に多くのものを生産することができないんです。工場にPlexMasterのためのラインがあるわけじゃないので、ときどきラインを空けてもらって、手作りで生産していきます。だから、いきなり何十台をといっても出せないんですよ。

藤本:Plextorで生産しているのはドライブであって、最終製品というわけではないんですよね?

吉田:はい。工場で作っているのはドライブ単体です。ゲームデベロッパーにはそれをバルクでも出しています。デベロッパーの場合は、自分で持っているドライブケースに差し替えてセットし、ワークステーションに接続しますから。また、このPlexMasterのドライブを搭載したデュプリケータもあります。1:4のものです。

藤本:ということは、オーディオ業界向けというのは、ゲームデベロッパーに出しているものとは違う製品なんですか?

TrueMASTER PXW-800S
菱沼:はい。オーディオのマスタリングスタジオ向け専用に作ったのは「TrueMASTER PXW-800S」という製品になります。これはSonicSolutionsのワークステーションに接続するCDW-900Eの後継として設計したものです。

 とにかく音質を向上させるため、電源もスイッチング電源ではないものを用い、完全なノイズ対策をしています。また音質のテストもJVCのスタジオで行なって、これが一番いいということで、導入していただきました。

吉田:ユニバーサルレコードさんからも、すでに注文を受けています。

藤本:価格的にはいくらぐらいのものなんですか?

菱沼:オープンプライスですが、だいたい65万円程度になります。ただし、当社ではエンドユーザーに直販はしないので、ヘビームーンという販売店を通して販売しています。ゲームデベロッパーには当社から直接販売していますが、これは登録したところにしか販売できないので……。ちなみにヘビームーンはSonicSolutionsの代理店です。

藤本:65万円となると、さすがに高いかもしれませんが、AV Watchの読者などには、こうしたドライブを熱望する方もいそうですよ。現にCDW-900Eを中古で買い漁っている人などもいますから。

菱沼:SONY系列のプレス工場がマスターディスクを受け入れる場合は、確かにPMCDを使うことになりますが、新規にPlexMasterの需要が生まれるとは、やはり思えません。とはいえ、このTrueMASTER PXW-800Sの場合、PMCDに対応したというのも大きな要素ですが、黒いボディーにしたことで低ジッターとなり、音質がとにかくいいのが売りです。

藤本:SonicSolutionsのシステムでは、PXW-800SをCDW-900Eと認識して動作するわけなんですか?

吉田:いいえ、PlexMasterのPXW-8220として認識しています。これは当社が、米国のSonicSolutions本社とやりとりして実現しています。このSonicSolutionsとの検証には結構時間がかかり、結果的には3月に正式対応となりました。国内で出荷されているシステムが対応しているかは、まだ確認できていませんが、遅かれ早かれ対応することになると思います。

藤本:ところで、このドライブを使うことで、焼きあがったCD-Rの音質が向上するということはよくわかるのですが、マスターCDとしたとき、最終的なプレスCDの音質はよくなるんでしょうか? 単純に理論的に考えると、関係ないようにも思うのですが。

吉田:その辺は、われわれもよくわからないところではあるのですが、確かに音がよくなるようなんです。JVCさんの場合、とにかくすべての工程でベストな音質である必要があるという考え方から、このドライブを導入していただいております。そういう要求があるのであれば、やはり我々としても最高の品質の製品を作ろうということで努力しているわけです。

藤本:なるほど、この辺のことはやはり当Digital Audio Labratoryで検証すべきテーマなのかもしれませんね。もっとも、このドライブを買って試すにはちょっと高いですけど……。

菱沼:実は、近いうちに低価格版も出す予定なんです。ほぼ同じスペックなのですが、スイッチング電源を用いるなどして、コストを少し落としています。価格は未定ですが、40万円前後になる予定です。まだ、ディストリビュータが決まっていないので、これが決まったら正式な案内があると思います。

□報映産業のホームページ
http://www.hoei.co.jp/
□ヘビームーンのホームページ
http://www.heavymoon.co.jp/
□関連記事
【2001月9月21日】WORLD PC EXPO 2001会場レポート 周辺機器編
―プレクスターがレコーディングスタジオ用のCD-Rドライブを出展(PC Watch)
http://www.watch.impress.co.jp/pc/docs/article/20010921/wpe08.htm

(2002年5月27日)

[Text by 藤本健]


= 藤本健 = ライター兼エディター。某大手出版社に勤務しつつ、MIDI、オーディオ、レコーディング関連の記事を中心に執筆している。以前にはシーケンスソフトの開発やMIDIインターフェイス、パソコン用音源の開発に携わったこともあるため、現在でも、システム周りの知識は深い。最近の著書に「ザ・ベスト・リファレンスブック Cubase VST for Windows」、「サウンドブラスターLive!音楽的活用マニュアル」(いずれもリットーミュージック)などがある。また、All About JapanのDTM・デジタルレコーディング担当ガイドも勤めている。


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ウォッチ編集部内AV Watch担当 av-watch@impress.co.jp

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